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心筋梗塞の後、残った冠動脈の狭窄はどうするのか——残枝病変と待機的PCIの根拠

[2026.05.18]

はじめに——「他にも細いところがありますね」

「カテーテルで詰まった血管を広げてもらいました。でも先生が『他にも細いところがありますね』と言っていました。次にどうすればいいですか?」——こういう質問が外来でよく出る。心筋梗塞で緊急入院し、一命をとりとめた直後にこんな話を聞かされても、なかなか頭に入らないのは当然だ。

この疑問に正直に答えると、「すぐには手術しないが、回復後には必ず対処する」となる。では、なぜ急性期にまとめてやってしまわないのか。そして、なぜ「残枝」も必ずPCI(経皮的冠動脈インターベンション)が必要なのか。両方の疑問を、エビデンスに基づいて丁寧に説明したい。

まず前提として、ACS患者の約半数は多枝病変(複数の冠動脈に狭窄がある状態)を持つとされている。今回詰まった血管だけを見ていては、患者さん全体のリスクは管理できない。それが多枝病変の難しさであり、治療戦略が重要になる理由だ。

ACS急性期:なぜ責任病変だけに絞るのか

緊急PCIの目的はただひとつ——「今詰まっている血管を1分でも早く開けること」だ。心筋は虚血(血流不足)が続くと不可逆的なダメージを受ける。時間が経つほど壊死する心筋が増え、心機能は回復しなくなる。だから急性期の緊急PCIは、分秒を争う処置なのだ。

では、この緊急の場面で残枝病変も同時に治療するのはどうか。一見効率的に思えるが、複数の理由で推奨されない。

CULPRIT-SHOCK試験——多枝同時PCIが死亡率を上げた

この方針を決定づけたのが、CULPRIT-SHOCK試験(2017年、NEJM)だ。心原性ショックを合併したACS患者を対象に、責任病変のみのPCIと多枝同時PCIを比較した。

結果は驚くべきものだった。多枝同時PCI群の30日死亡率は51.5%で、責任病変のみ群の43.3%を大幅に上回っていた。「まとめてやる」ことが、かえって命を縮める結果となったのだ。この試験以来、「急性期は責任病変のみ」という方針が世界的なスタンダードとなっている。

残枝病変を放置するとどうなるか——なぜ待機的PCIが必要か

急性期に残枝を触らない理由はわかった。では、退院後にもそのまま放置してよいのかというと、それは明確にNOだ。

記事①で解説したように、ACS後の全冠動脈は炎症がくすぶった状態にある。残枝に狭窄が存在するなら、その部位でも不安定プラークが進展している可能性が高い。適切なタイミングで血行再建を行わなければ、残枝からの新たなACSが起きる。

FFR(血流予備量比)——虚血の証明

待機的PCIを行う際に重要なのが、本当にその狭窄が「心筋虚血を起こしているか」を確認することだ。造影だけでは見た目の狭窄度しかわからない。そこで使われるのがFFR(血流予備量比)という指標だ。

FFRは0.80以下であれば虚血が証明されると定義されている。FAME試験(2009年、NEJM)では、FFRガイド下のPCIと造影ガイド下のPCIを比較した結果、FFRガイド群では1年以内の主要心血管イベントが28%減少した。「見た目で狭い」だけでなく「機能的に虚血がある」ことを確認してPCIする——これが現在の標準的アプローチだ。

COMPLETE試験——待機的PCIの決定的なエビデンス

待機的PCIの根拠を示した最大の試験が、COMPLETE試験(2019年、NEJM)だ。この試験は、ACS後の残枝管理において世界的な方針転換をもたらした。

試験の概要

結果

この結果が、現在「残枝病変は必ず待機的にPCIする」という方針の根拠になっている。急性期さえ乗り越えれば、残枝はそのうちやればいい——ではなく、「確実に、適切なタイミングで完全血行再建を行う」ことが、次の心筋梗塞・心臓死を防ぐのだ。

SYNTAX試験——PCIかCABGか、病変の複雑さで決める

残枝病変が多く・複雑な場合(3枝病変や左主幹部病変)には、PCI(カテーテル治療)ではなくCABG(冠動脈バイパス手術)が適切なことがある。

この基準を示したのがSYNTAX試験だ。3枝病変または左主幹部病変に対してPCI vs CABGを比較した結果、病変の複雑さを示すSYNTAX scoreが高い(中等度以上)患者では、CABGが長期予後に優れることが示された。一方で中等度以下ではPCIとCABGで予後は同等だった。

つまり残枝病変の「どこにあるか」「どれだけ複雑か」によって、PCIとCABGのどちらが適切かを判断することになる。これは心臓専門チーム(ハートチーム)で議論して方針を決めるのが世界標準だ。

待機的PCIまでの間に何をするか——薬物療法が最重要

残枝PCIを行うまでの数週間〜数ヶ月の間、患者さんに最も大切なことを正直に言う。薬物療法こそが「次のACS」を防ぐ最前線だ。この期間を「ただ待つだけ」にしてはいけない。

「残枝PCIまでの期間は危険だ」と不安になる患者さんもいるが、正確には「薬でしっかり管理しながら待つ、安全な準備期間」だ。適切な薬物療法を続けながら状態を安定させ、万全の状態で血行再建を行う——これが現在の標準戦略だ。

当院での管理方針と連携

当院(東松戸クリニック)では、ACS後の残枝病変を持つ患者さんに対して、以下の管理を行っている。

  • 退院後からの薬物療法の確認・調整(スタチン・DAPT・降圧薬・血糖薬)
  • 残枝PCIのタイミング計画(専門施設との連携)
  • 術前後の全身管理・生活指導・定期フォロー

「もう一本ある」と言われたまま不安を抱えている方は、ぜひ一度外来にいらしてほしい。何をいつやるか、なぜやるかを丁寧に説明する。

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