健診で心房細動と言われた——その日に知っておくべきこと
健診の結果用紙に「心房細動疑い」と書いてあった——そういう患者さんが、毎週のように当院を受診されます。みなさん共通しておっしゃるのは、「何をすればいいのか分からなかった」ということです。この記事では、まずそこを整理します。
心房細動とは何か——心臓の「電気系統」の話
心臓を動かしているのは、実は電気です。右心房の上にある「洞結節」というところが一定のリズムで電気信号を出し、それが心房全体に広がって収縮が起きます。信号は「房室結節」を経由して心室に届き、心室が収縮して血液を全身に送ります。これが1回の拍動です。安静時で毎分60〜100回、規則正しく繰り返されています。
心房細動になると、この仕組みが乱れます。心房のあちこちから毎分300〜600回もの電気信号が勝手に出てしまい、心房は「震えるだけ」の状態になります。きちんと収縮できないため、血液を心室に送る効率が落ちます。脈も不規則になりますし、速くなりすぎることもあります。
余談:クジラはみんな心房細動
クジラやイルカのような大型の海洋哺乳類は、深く潜るときに心拍数がぐっと落ちます。そのとき、心房細動のような不規則なリズムが自然に出ることが知られています。大きな心臓を持つ動物にとっては、ある意味「普通のこと」のようです。
ただ、だからといって人間も大丈夫というわけではありません。クジラと人間では体のつくりが違います。人間にとって心房細動が怖い理由は、脈が乱れること自体よりも、「血の塊(血栓)ができやすくなること」にあります。
年齢が一番のリスク因子です
心房細動は、年をとれば誰にでも起こりえます。日本人のデータでは、60代で約1%、70代で3〜4%、80代になると8〜10%の方にみられます(Inoue H, et al. Int J Cardiol 2009)。日本はこれからさらに高齢化が進むので、患者数はまだまだ増えるでしょう。
「若い頃から心臓が悪かったわけでもないのに」とおっしゃる方が多いですが、それは当然です。年齢とともに心房の組織が変わっていきますし、高血圧や糖尿病の影響も積み重なります。特別な方がなる病気ではなく、長生きすれば誰でもリスクが上がります。
なぜ脳梗塞につながるのか
心房細動で一番怖いのは脳梗塞です。正常な心房は規則正しく収縮して、血液をしっかりかき混ぜています。心房細動ではこの動きがなくなるので、血液が澱みます。とくに左心耳という小さなポケットのような場所に血が溜まりやすく、そこで血栓ができます。
洗濯機が回っている間は洗濯物が広がっていますが、止まると底に固まります。あのイメージに近いです。
この血栓が血流に乗って脳の血管を詰まらせると、心原性脳塞栓症になります。ほかの原因による脳梗塞と比べて、心臓から飛ぶ血栓は大きいため、太い血管が詰まりやすく、範囲が広い分、後遺症も重くなりがちです(Wolf PA, et al. Stroke 1991)。「たかが不整脈」とは思わないでください。
「症状がないから大丈夫」ではありません
心房細動の患者さんのうち、3〜4割は動悸も息切れもまったく感じません。健診で偶然見つかるケースは珍しくありません。ですが、症状がなくても血栓はできます。「何ともないから放っておいた」結果、脳梗塞が最初の症状だった——そういう方を私は何人も診てきました。症状がないことと、リスクがないことは別の話です。
健診で指摘されたら、早めに受診してください
すぐに入院が必要な病気ではありません。ですが「来月でいいか」と先延ばしにしないでください。受診して確認すべきことは決まっています。まず12誘導心電図で確定診断をつけます。健診の心電図は簡易版なので、精密な検査が必要です。次に採血で甲状腺機能や電解質をチェックします。甲状腺の異常が心房細動の原因になっていることもあるため、見落とすと治療方針が変わります。そして心エコーで心臓の形と動きを評価します。ここまで揃って初めて、「抗凝固薬が必要かどうか」の判断ができます。
「心房細動です」は終わりではありません
診断されると不安になるのは当然です。ただ、見つかったということは、ちゃんと対処できるということでもあります。リスクを把握して必要な治療を始めれば、普通に日常生活を送っている方がほとんどです。動悸が気になる、息切れがある、健診で何か指摘された——まずは一度受診してください。検査結果を見て、一緒に考えましょう。
