「息切れ・むくみ」の心不全に、また新しい選択肢 ── フィネレノン(ケレンディア®)とは
「階段や坂道で息切れがひどい」「足がむくむ」「疲れやすい」――こうした症状で「心不全」と診断される方が増えています。特に、心臓のポンプ機能は保たれているのに心不全の症状が出るタイプ(HFpEF:ヘフペフ)は、高齢化とともに急増している病気です。
この心不全に対して、2024年に世界的な臨床試験(FINEARTS-HF試験)で有効性が確認され、日本でも2025年12月に「慢性心不全」への使用が承認された新しい薬があります。それがフィネレノン(商品名:ケレンディア®)です。
心不全にはタイプがある
心不全と一口に言っても、「心臓のポンプ機能が落ちているタイプ(HFrEF)」と「ポンプ機能は保たれているのに息切れやむくみが出るタイプ(HFpEF・HFmrEF)」があります。実は心不全の患者さんの半分以上は後者のタイプで、高血圧・糖尿病・肥満・心房細動などが背景にあります。
これまで、ポンプ機能が落ちたタイプの心不全には、寿命を延ばす薬が4種類(4本柱)そろっていました。ところがポンプ機能が保たれたタイプでは、寿命や入院を減らす薬がなかなか見つからず、患者さんも医師も長らく歯がゆい思いをしてきました。ここ数年、糖尿病の薬「SGLT2阻害薬」が有効と分かって、ようやく1つ目の柱ができたところでした。
フィネレノン(ケレンディア®)とは
フィネレノンは、心臓と腎臓に負担をかける「アルドステロン」というホルモンの働きを抑える薬です。以前からある同じ系統の薬(スピロノラクトンなど)は、ポンプ機能が落ちた心不全に長く使われてきましたが、副作用(血液中のカリウム上昇、女性化乳房など)が課題でした。
フィネレノンは、こうした従来薬より「必要なところに選択的に効き、副作用が出にくい」ように新しく設計されたお薬です。もともとは糖尿病を合併した慢性腎臓病の治療薬として、日本でも使われてきました。
FINEARTS-HF試験 ── 6,000人を超える大規模研究
2024年に発表されたFINEARTS-HF試験では、ポンプ機能が保たれた(またはやや低下した)心不全の患者さん6,016人を対象に、フィネレノンとプラセボ(見せかけの薬)に分けて、平均2年半以上追跡しました。
結果はこうです。
- 「心血管死+心不全での入院・緊急受診」を組み合わせた指標が16%減少(統計的に有意)
- 特に心不全での入院・受診が減った
- 患者さんの生活の質(QoL)も改善
- 副作用は、血液中のカリウムがやや上がる程度で、注意しながら使えば管理可能
これは「ポンプ機能が保たれた心不全」に対して、心不全の入院を明確に減らした2つ目のエビデンスです。医療界では大きなインパクトを持って迎えられました。
日本でも心不全に使えるようになりました
日本では、2025年12月22日にフィネレノン(ケレンディア®)が「慢性心不全」の治療薬として正式に承認されました。2025年に改訂された心不全診療ガイドラインでも、ポンプ機能が保たれた/やや低下した心不全に対して推奨されるようになっています。
どんな方が対象か
次のような方が候補になります。
- 心不全と診断されている(NYHA II以上:階段や日常動作で息切れがある)
- 心エコーで左室駆出率(EF)が40%以上
- SGLT2阻害薬(フォシーガ、ジャディアンス)など、すでに標準治療を受けている
- 腎機能や血液中のカリウムに大きな問題がない
フィネレノンは、他の心不全治療薬を「置き換える」薬ではなく、SGLT2阻害薬などに「上乗せする」形で使う薬です。心不全の治療は複数の薬を組み合わせるのが基本で、フィネレノンはその1つの重要な選択肢になります。
使うときに注意すること
1. 定期的な血液検査 血液中のカリウム値が上がりすぎることがあるため、開始後は数週間ごとに血液検査で確認し、状態に応じて量を調整します。
2. 腎機能 もともと腎機能が大きく低下している方は使えないことがあります。事前に検査で確認します。
3. 他の薬との相互作用 他のカリウムを上げる薬(別の心不全薬・カリウム製剤・一部の血圧薬)との併用は慎重に判断が必要です。今飲んでいる薬は必ず医師に伝えてください。
当院でできること
当院(東松戸クリニック)は循環器の専門医が心不全診療をおこなっています。ポンプ機能が保たれた心不全は診断が難しく、「なんとなく息切れがする」で長年見過ごされていることも少なくありません。心エコー・血液検査(BNPなど)で正確に評価し、SGLT2阻害薬・フィネレノンを含む最新のエビデンスに沿った治療プランをご提案します。
「息切れやむくみが気になる」「健診で心臓・腎臓・血圧を指摘された」「他院で心不全と言われているが今の治療で良いか不安」――そんな方は、ぜひ一度ご相談ください。
※本記事は一般的な医療情報の提供を目的としたものです。診断や治療方針は必ず主治医とご相談ください。記事中の承認・保険適応情報は執筆時点のものです。
